がーくんのブログ

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【書評】人類との遭遇

韓国の女性人類学者が科学雑誌(日経サイエンスのようなもの?)で連載した記事をまとめた本。人類学はヨーロッパが盛んなので,韓国人が著者というのは珍しい。22の章は各章完結型で順序もバラバラなので,どの章からでも読み始めることができ小気味よい。人種や生態系に対する著者の控えめで,真摯で,それでいて啓蒙的―そんな姿勢が素晴らしい一冊。

 

「人類」の条件は?

ヒトとサルの違いは何か?

脳の容積?
直立二足歩行?
火?
道具?

いろいろ思いつくが,著者の主張する条件「生まれた瞬間から社会に属していること」は初めて聞いた。ヒトの胎児は母親の産道の形状の都合から,うしろを向いて生まれるらしい。母親が無理に赤ちゃんを引っ張り出したら首の骨を折ってしまう。

つまり、ヒトは誰かの協力がないと出産できない。

「おばあちゃん仮説」は有名だが,そもそも生まれながらにして高度に「社会」を必要とし,「社会」と密接に関わっているのがヒトだ。

電車で泣いてる赤ちゃんと母親を迷惑がる人はもはやヒトではない。ヒトに優しくしよう。

北京原人と日本のヤクザ

この本でいちばんゾクゾクするエピソードは断トツで北京原人の話。

北京原人1920年代に発見されたものの日中戦争で採掘が中断したそうだ。安全に保管するためにアメリカへ移す手続きがとられたが,その輸送中に行方不明に。

では、北京原人の骨はどこの誰が持っているのか?著者はあるとき北京原人にお目にかかるチャンスを得た。

招待したのはなんと日本のヤクザだった。ヤクザが北京原人の骨を持っている?どこまで事実かは闇の中。事実は小説よりも奇なりかもしれない。

ギガントピテクスはホモ・エレクトスが絶滅させた?

ギガントピテクス(学名:Gigantopithecus)は、ヒト上科の絶滅した属の一つである、大型類人猿。 身長約3m、体重約300 - 540kg[3][4]に達すると推測される本種は、現在知られる限り、史上最大のヒト上科動物であり、かつ、史上最大の霊長類である。https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%AE%E3%82%AC%E3%83%B3%E3%83%88%E3%83%94%E3%83%86%E3%82%AF%E3%82%B9

3mもあるヒトがなぜ絶滅したのかという謎に著者は興味深い解答を唱えている。

ギガントピテクスは竹を主食としていた。競争相手はパンダだけ。そこにホモ・エレクトスがギガントピテクスの生息域にやってきた。ホモ・エレクトスは竹を食べない。ならばホモ・エレクトスとギガントピテクスは共存する?いやいや,ホモ・エレクトスは道具をつくった。竹を槍などの道具づくりに使った可能性がある。竹は化石には残らない。

証拠はない。しかしホモ・エレクトスが森林破壊をしてギガントピテクスを絶滅させたとしたら?環境破壊は太古の昔にもあったのかもしれない。

人種差別

私は学校で、韓国人の祖先は北東アジアないしシベリアから来たと習いました。韓国人にとって、アジア大陸の北東端で暮らしていた人々の子孫だという話はまんざらでもありません。ですが、祖先が東南アジアから来たと言われたらどう思うでしょうか?祖先が色黒で小柄だったという話を、韓国人は嫌がるでしょうか?仮に嫌がるとしたら、その抵抗感のおおもとは、今の多くの韓国人が東南アジアの人々に対して抱いている人種差別的な偏見なのではないでしょうか?そうした態度が、20世紀初頭のヨーロッパ人がネアンデルタール人に対して抱いていた偏見と、どう違うというのでしょう?私たちは物事を科学的に判断しているという自己イメージを抱いているかもしれませんが、過去や祖先に関する疑問を追求する際には、社会的な自己イメージがその姿勢に偏見をもたらすことを忘れずに手に入るのも大切です。

これは重要な視点だ。人間にはどうしたってバイアスや偏見がある。それが科学的探求にも影響を与えてしまうかもしれない。人類学や遺伝学の解き明かす真実が,自分のイメージとかけ離れたものだったら?

科学が明らかにする真実は,自分の浅はかさに気づかせてくれる。