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【書評】東芝 原子力敗戦

著者の大西康之が書かれた『東芝解体』が面白かったため、こちらも拝読。

大西氏は東芝を糾弾しているジャーナリストであるため一方向からの偏った見解ではある。しかも後知恵バイアスが働いている点には注意が必要。

しかし、東芝の歴代経営者・実働部隊・平社員がなぜ粉飾という悪事に手を染めたのかを、膨大な取材量と実際に社内でやり取りされたメールなどをもとに明らかにする姿勢には頭が下がる。

サラリーマンなら誰もが陥る危うさが、東芝にはあった。

のりピー買い物依存症

のりピーとは佐々木則夫社長のこと。“則夫プレジデント”で“のりピー”である。東芝社内でこう呼ばれていたそうだ。

誰がうまいこと言えと。

のりピーを筆頭に東芝の歴代経営陣は強気のお買い物を繰り返す。

エスチングハウス、資源ビジネス、ランディス・ギアetc……

しかし、東芝が「買うことができたモノ」は、裏を返すと他が購入を躊躇したいわくつきの物件ばかりであったということがこの本では繰り返し指摘されている。

WHは、東芝が買収した時からすでに「死に体」だった。
理由はいくつかあるが、中でも最も根源的な問題を一列として挙げよう。
2001年9月11日の米同時多発テロをきっかけに、米国で原発を作るコストは大きく跳ね上がっていた。民間航空機がニューヨークの世界貿易センタービルに突っ込むのを目の当たりにした米原子力規制委員会は、「今後、原発がテロのターゲットになる恐れがある」と考え、国内の原発に航空機衝突対策を義務付けたのだ。
COLと呼ばれる新たな審査制度を経て建設認可を得るには、7年もの時間がかかるようになった。
WHは、こうした新たな状況に対応できていなかった。
そもそも、米国では1979年のスリーマイル島原発事故以来、30年間、原発の新設が途絶えていた。その間、WHの仕事は米国内の既存原発への燃料供給とメンテナンス、海外で新設される原発へのライセンス供与であり、「現場の仕事」からは遠ざかっていたからだ。

資源ビジネスの経験があった丸紅は、経産省に背中を押され、一度はその気になった。そして、WH買収への参加をギリギリまで検討したが、勝俣(弟)は直前で「やはりリスクが高すぎる」と見切ったのだ。のちにWHが経営破綻することを考えれば、正しい判断だった。

WHのケースとよく似ているが、こうした老舗企業はえてしてプライドが高く、買収されても、「俺たちが教えてやる」というスタンスで、自分のやり方を変えようとしない。そこが問題だった。
ランディス・ギアを買収した東芝は2013年、東電からの受注を獲得した。2023年度を目指して東電管区2700万世帯にランディス・ギアのスマートメーターを設置することになった。買収を決めた佐々木にすれば、してやったりの展開だ。
ところが2015年、不都合な事実が判明する。ランディス・ギアのスマートメーター東電スマートグリッドの通信方式に違いがあるため、2700万世帯のうち800万世帯しかカバーできなかったのだ。東電は「東芝に瑕疵がある」として作り直しを要請した。

東芝が粉飾に手を染めた経緯を簡単にまとめると、見通しが甘く根拠のない自信から買い物をし、その失敗を隠すためまた次の買い物をする。こうしてウソにウソを重ねた結果が粉飾だった。

しかし、なぜ社内の誰ひとりとして粉飾を止めることができなかったのだろうか。

凡人による悪事

なぜ事態が大きくなる前に誰かがブレーキを踏まなかったのか。なぜ平社員から社長まで粉飾決算という悪事に手を染めてしまったのか。

ここで引き合いに出されるのがナチス・ドイツアイヒマンなる人物である。ユダヤ人の強制収容所送りを手動したアイヒマンは「つまらぬ小役人で平凡な男」だったという。

「自分の昇進にはおそろしく熱心だったということのほかに彼には何らの動機もなかったのだ。(中略)俗な表現をするなら、彼は自分のしていることがどういうことか全然わかっていなかった。(中略)彼は愚かではなかった。完全な無思想性―これは愚かさとは決して同じではない―、それが彼があの時代の最大の犯罪者の一人になる素因だったのだ。このことが<陳腐>であり、それのみか滑稽であるとしても、またいかに努力してみてもアイヒマンから悪魔的な底の知れなさを引出すことは不可能だとしても、これは決してありふれたことではない」

ナチスドイツのアイヒマンは「凡人」だった。「凡人」が職務を黙々と遂行した結果、大変な悪事を犯してしまった。しかし、本人から言わせれば己の職務を全うしただけであり、犯罪に手を染めている実感はなかった。

東芝の社員にも同様のことが当てはまるのではないか、というのが筆者の結論である。

真面目で優秀な社員が、己の職務を全うした。

思考停止状態で。

これはサラリーマンすべてが陥る可能性のある罠である。

東芝粉飾決算という”敗戦の歴史”から学ぶことは多い。