がーくんのブログ

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【書評】ヒットの崩壊

タイトルは釣り気味だけど、90年代~10年代の音楽業界に置きた変化をチャートの分析、小室哲哉いきものがかり水野良樹といったプレイヤーへのインタビューなんかも交えながら冷静に分析してる。

紅白歌合戦に知らないアーティストや曲が出てくる、iTunesランキング上位のアニソンが分からない、100万枚売ってるAKBの曲を知らない、あのモヤモヤ感の正体を鮮明にしてくれる。

人間のランキング

90年代、なんで100万枚、200万枚、300万枚とCDは売れたのか。”オリコン1位”があんなにも持て囃されたのか。

この問いに、「人間のランキング」という答えが出てくる。

では、なぜレコードの売り上げ枚数のランキングが話題を呼び、社会的な影響力を持つようになったのか? 「シングルランキングはレコードの売り上げ枚数のランキングだから、一見すると『モノのランキング』に見えますよね。でも、実はこれって、『人間のランキング』なんですよ」
垂石はこう指摘する。 「やっぱり『人間のランキング』が一番興味を持たれるんです。たとえば、うちでも書籍のランキングをやっていますが、やっぱり音楽に比べるとなかなか話題にならない。それはあまり人間のランキングとして見られていないからです。それに比べると、レコードやCDのランキングはそれを歌っている人の人気を並べたランキングになる。だからこそ、ランキングで1位になることに大きな意味がある。それに、発売日が重なると熾烈な戦いになりますよね。たとえば80年代の松田聖子中森明菜がそうだった。00年代の宇多田ヒカル浜崎あゆみもそう。それらのランキングが注目を集めたのも、それが『人間の対決』だからなんですよね」

宇多田ヒカル浜崎あゆみが同じ日にアルバムリリースしたときはワイドショーでも「世紀の歌姫対決」を煽ってて凄かった。当時中学生だったボクは、お小遣いから宇多田ヒカルの『Distance』を買った。確かにあの時は宇多田ヒカルの曲を聴きたいだけでなく、宇多田ヒカルに1位になってほしいという気持ちでCDを買った。

で、なんでオリコンランキングが機能しなくなったのか。その答えのひとつがAKBの選抜総選挙にある。

むしろハッキングの本質は選抜総選挙にある。AKB48のみが「人間の対決」という仕組みをそのプラットフォームの中に内在している。人気の指標を、明確な基準によって集計された数字によってランキング化する。その独自のシステムを持っている。

つまり、AKBのCD売上を握手券を売ってるだけといってバカにする人がいるけど、90年代のCD売上だって純粋に音楽を買っていたとは言えない。「人間のランキング」に影響されてアーティストという人間のCDを買っていたにすぎない。今のチャートが異常なのはもちろん、90年代のチャートも同じく異常だった。

J-POPのミュージカル化

ヘビーローテーション

マル・マル・モリ・モリ!

恋するフォーチュンクッキー

レット・イット・ゴー~ありのままで~

前前前世

PPAP

個人的に10年代のヒット曲と呼ぶにふさわしいと思うのはこの7曲。

去年は豊作だったね。今年は1曲も思い浮かばないほどの凶作

この本の中では10年代の変化のひとつとして、カラオケや踊ってみた動画など、音楽は「聴く」ものから「参加する」ものになったと書かれている。

この現象はひとことで言うとJ-POPがミュージカル化しているということじゃないだろうか。『アナ雪』はモロにミュージカルだし、『君の名は。』もミュージカル的な要素のある作品だ。今年も『モアナ』や『美女と野獣』が話題だし、次の国民的ヒット曲はミュージカルから生まれたりして。

ロングテールとモンスターヘッド

興味は細分化し、見たいものだけ見れる時代、マスじゃなくニッチに商機がある。そう思っていたが、実情は違うらしい。

かつてに比べてリリースされる作品の量は格段に増えた。制作費が安くなったこと、誰もがネットを通して作品を発表できるようになったことで、とても広大なニッチ市場が成立するようになった。ロングテールは確かに長くなった。しかし、その先端は極端に細くなり、ロングテールの先っぽは、儲けを生み出すにはほど遠い小規模の売り上げのものが占めるようになった。
その一方で、SNSが普及したことで「みんなが話題にしている」という状況がもたらす波及力がさらに増した。人々は、周りの人と同じ音楽を聴きたがり、同じ映画を観たがるようになった。エンタテインメント産業における勝者の影響力がより強くなった。結果、圧倒的なスケールで成功をおさめるトップスター、いわば「ロングテール」と対極の「モンスターヘッド」の存在感が増した。

ここまで読んで初めて、この本は音楽業界のことだけじゃなくあらゆるコンテンツ業に通ずる構造的な変化を指摘しているということに気がついた。

ちなみに自分はLINEミュージックを利用している。サブスクリプションサービスを利用しはじめてから興味や視野が広がっていろんなアーティストを聴くようになった。

DAOKO、さユりパスピエ、女王蜂、ハナエ、SHISHAMOYun*chi……

CDの売上で言えば2000~3万ぐらいのアーティストばかり。この規模はロングテールと言うにはちょっと多いが、もし今が90年代CDの時代、あるいは00年代ダウンロードの時代だったら自分では絶対にたどり着かない。

ロングテールだろうとモンスターヘッドだろうと、リスナーにとっては選択肢の多い良い時代になっている。

社会に影響を与える

「たとえビジネスとして成立していたとしても、みんなが共有できるヒット曲がないということは、音楽が社会に影響を与えていると言い切れないということになってくると思うんです。そうすると、逆に社会全体から見たら、音楽はいくつかあるコンテンツのうちの一つでしかなくなってしまう。極端に言えば、どうでもいいものになってしまうんじゃないかという危惧があるんです」

この本でいちばん印象的だったのが、いきものがかり水野良樹のこのコメント。 

ヒット曲がない時代というのはやっぱりなんだか味気ない。あくまでも作り手の意識は、水野良樹のようであってほしい。

ところが今、たとえ無料であっても音楽を聴かない層が増え「音楽離れ」が進んでいるという分析もある。

news.yahoo.co.jp

 

これはまさに音楽が社会に影響を与えなくなった結果だろう。